6月6日、首相公邸に一風変わった集団が登場した。元参院議員でもある西川きよしさんや吉本新喜劇のメンバーらだ。安倍晋三首相のモノマネが芸風のビスケッティ佐竹さんが“本人”登場前にイスに座ってあいさつをするという軽いギャグに始まり、吉田裕さんが上半身裸になって得意の「乳首ドリル」を披露。首相が「この前、松竹新喜劇で…」とボケるとメンバーらがコケるというコテコテの演出だった。
【写真】安倍首相を訪問し、ネタを披露する吉本新喜劇のメンバー
■昼夜とも有名人・芸能人と
メンバーの来訪は、4月19日に首相が大阪市中央区の吉本新喜劇の劇場「なんばグランド花月」の舞台に立ったことが縁だった。首相は大阪市で6月28、29両日に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)のアピールのため、首相として初めて新喜劇に登場。その場で、座長のすっちーさんが「今度おうち行ってもよろしい?」とお願いしていた。
メンバーらは公邸で昼食もともにした。実は同日夜、首相は公邸でゴルフの青木功プロらとも夕食をとった。首相の動向を記した産経新聞「安倍日誌」を調べた限り、政治家や財界人、一般の知人・友人を除くと、平成24年12月発足の第2次安倍政権以降、同じ日に公邸で芸能人・有名人と昼食、夕食をそれぞれとったのは初めてだった。
表に出ていない日程もあるだろうが、首相は令和に改元した今年5月以降、こうした有名人らとの会食が明らかに増えている。
5月10日には都内のピザ店で、男性アイドルグループ「TOKIO」の4人と会食した。首相は同月12日、自身のフェイスブックなどにそのときの写真をアップし「TOKIOの皆さんと再会しました。福島復興のために頑張ってくださっています。話に花が咲き、本当に楽しいひとときを過ごすことができました!」とコメントした。
5月20日は俳優・歌手の杉良太郎さんの都内の自宅で、夫人の歌手、伍代夏子さんも含めて夕食をとった。杉さんは日・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別大使を務めている。
22日は公邸で俳優の大泉洋さん、女優の高畑充希さんと夕食をとった。首相は昨年の大みそかに大泉さんらが出演した映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」を鑑賞していた。
■一時は「同日選向け」との見方も
これらは永田町に「解散風」が吹いていた時期と重なる。今となっては夏の衆参同日選は行われない見通しだが、首相が相次いで有名人らとの会食をするので、同日選に向けたアピールと見る向きがあった。
実際、インターネット上には「人気取りだ」「政治利用だ」との批判的なコメントが目立つ。一方、TOKIOの写真を掲載した首相のフェイスブックには1万3千の「いいね!」が寄せられた。
首相は単に遊んでいたわけではないだろう。それぞれの会食には、一通りの理由が見受けられる。TOKIOは東京電力福島第1原発事故の被害を受けた福島県の復興PRに尽力しており、リーダーの城島茂さんは農業と福祉の連携を進める政府の会議の有識者を務めている。
杉さんは日本とASEANの友好のため音楽祭をプロデュースし、ベトナムの孤児100人以上を里子にしている。長年にわたり国内の矯正施設を訪問し、法務省から「特別矯正監」の委嘱も受けている。
大泉さんと高畑さんが出演した映画は難病の筋ジストロフィー患者を取り上げた実話を元にしており、首相は大泉さんらと一緒に撮影した写真をアップした自身のツイッターで「色々と考えさせられるとともに本当に元気がでる映画でした」と投稿した。首相は若手時代、福祉や社会保障などを専門とする「社労族」だった。
吉本新喜劇への出演はG20サミット開催に伴う交通規制などへの協力依頼の面があり、青木プロは5月27日の首相とトランプ米大統領のゴルフを一緒にラウンドし、日米友好に一役買った。
過去にさかのぼると、首相が最も多く会食しているのが昨年8月に亡くなった俳優の津川雅彦さんだ。首相の再登板以降、少なくとも15回会食している。
第1次政権が1年で終わった失意の首相を、励まし続けてきたのが津川さんだった。津川さんは昨年、パリで開催された日本博「ジャポニスム2018」を提唱し、日本の文化を発信する「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」の座長だった。政府が作成した北朝鮮の日本人拉致問題解決に向けた啓発ポスターのモデルも、ボランティアで務めた。
もちろん個人的な関係の会食もあるだろうが、首相の会食は政府の仕事の延長線上にあるということもできそうだ。
そもそも首相が誰と会食しようが、国民にとってはあまり関係がない。有名人や芸能人と会食する首相に親近感を抱く人はいるかもしれないが、自民党総裁の首相がTOKIOと会食したからといって「選挙で自民党に投票しよう」というほど、国民は単純ではないだろう。
衆参同日選がないとしても、夏には確実に参院選が行われる。その前に有名人と会食を重ねることは、むしろネット上にあふれているような批判の方が多くなるリスクもある。いずれにせよ、国民の判断することである。(政治部次長 酒井充)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース